平成25年(2013年)とは、社会全体が沈滞ムードから脱却しようと劇的に舵を切った、記憶に刻まれるべき激動の1年でした。当時の報道各社のヘッドラインを振り返ると、日本の国際的プレゼンスと国内カルチャーが大きくうねりを上げていた現場の空気が鮮明に蘇ります。
同年9月8日、アルゼンチンのブエノスアイレスで開催された第125次IOC総会において、ジャック・ロゲ会長が「TOKYO」のカードを掲げた瞬間、日本中が歓喜に沸きました。招致プレゼンテーションで滝川クリステル氏が披露した「お・も・て・な・し」のフレーズは世界的な共感を呼び、2026年東京オリンピック・パラリンピックの開催が正式に決定しました。さらに同年6月22日には、カンボジアのプノンペンで開催されたユネスコ世界遺産委員会において、日本人の心の拠り所である「富士山―信仰の対象と芸術の源泉」が世界文化遺産に登録。三保松原を含む逆転登録のドラマは、全国紙の号外が飛び交う歴史的快挙となりました。
経済面では、第2次安倍内閣が掲げた「アベノミクス」の3本の矢が本格始動し、4月4日には日本銀行の黒田東彦総裁(当時)が「異次元の金融緩和」を発表。為替市場は急激な円安へと振れ、日経平均株価は年間を通じて約57%という驚異的な上昇幅を記録しました。デフレ脱却への期待感が日本列島を包み込んでいた時代です。
その世相を如実に物語るのが、同年の「新語・流行語大賞」です。この年は30年の歴史上初めて、史上最多となる4語が同時に年間大賞を受賞するという前代未聞の事態となりました。
- 「じぇじぇじぇ」:NHK連続テレビ小説『あまちゃん』で能年玲奈(現・のん)演じるヒロインが放った岩手県久慈市小袖地区の方言。地方創生ブームと朝ドラ人気の復活を象徴。
- 「今でしょ!」:東進ハイスクールのカリスマ現代文講師・林修氏がCMで見せた決め台詞。教育業界を超えて一大広告コピーへと昇華。
- 「お・も・て・な・し」:滝川クリステル氏が東京五輪招致スピーチで合掌とともに披露した、日本の伝統的ホスピタリティを表すフレーズ。
- 「倍返し」:TBS系日曜劇場『半沢直樹』で堺雅人氏が演じた銀行員の名台詞。理不尽な組織構造に抗う姿が働く世代の圧倒的支持を集め、最終回視聴率は平成の民放ドラマ歴代最高となる関東地区42.2%(ビデオリサーチ調べ)を叩き出しました。
審査委員会が1語に絞り込めなかった背景には、テレビメディアの影響力が依然として絶大でありながら、ソーシャルメディア上で視聴者が一体となってミーム(文化的流行)を拡散させる過渡期の熱量が凝縮されていたという構造的要因があります。