除菌治療において医師や薬剤師が口を酸っぱくして「7日間必ず飲み切ってください」と繰り返す背景には、単なる精神論ではない深刻な感染症学的リスクが存在します。「お腹が痛いから3日目でやめた」「味が苦くて耐えられないから5日目で飲むのを自己判断でやめた」というネット上の書き込みも見られますが、その代償は想像以上に重いものです。
抗菌薬を中途半端な日数や濃度で投与すると、感受性の高いピロリ菌は死滅するものの、わずかに生き残った抵抗力のある菌株が薬剤の作用機序を学習し、薬剤耐性ピロリ菌へと変異を遂げます。特にクラリスロマイシンに対する耐性化は容易に起こり、一度耐性を獲得したピロリ菌は、二度と同じ薬では除菌できなくなります。
除菌判定の呼気テストや便中抗原検査は内服終了から通常2か月後に行われますが、途中で服薬をやめた患者の再検査結果は高確率で「陽性(除菌失敗)」となります。そこから始まる再除菌の道のりは決して平坦ではありません。
一次除菌に失敗した場合、二次除菌ではクラリスロマイシンを外し、代わりにメトロニダゾール(抗原虫・抗菌薬)を組み込んだボノピオンパック等へ変更します。幸い二次除菌の成功率は95%以上と極めて高い水準を維持していますが、健康保険が適用されるのはこの二次除菌までです。二次除菌でも自己中断や飲み忘れによって失敗を重ねた場合、三次除菌以降はすべて自費診療(全額自己負担)となり、数万円から十数万円の経済的負担と度重なる内視鏡検査の苦痛がのしかかることになります。