午後8時を回り、プログラムが佳境に入ると、港の一角に漂っていた空気は完全に変質していた。音楽に合わせて夜空を切り刻むミュージカル花火、息をもつかせぬスターマインの連続乱れ打ち。海風が硝煙を程よく沖へと押し流し、視界は極めてクリアだった。条件としてはほぼ完璧だ。
ラストスパート、数千発の光粒が視界を埋め尽くした刹那、観客席のあちこちから拍手ではなく「うおおお!」という雄叫びにも似た歓声が湧き上がった。隣にいた見知らぬ青年が両手を突き上げ、老夫婦が顔を見合わせて笑っている。スマホの画面越しに眺めるデジタルな美しさなど、ここでは何の役にも立たない。光を肌で浴び、火薬の煙を肺に吸い込み、爆音の余波に震える。生身の人間だけが味わえる圧倒的なカタルシスが、あの波止場には満ち満ちていた。