現存天守の見学において、現代の建築基準法で作られた施設を想像して訪れると大きなカルチャーショックを受けます。現地を訪れた旅行者や愛好家の記録から見えてくる、現場のリアルな実態を検証します。
最大の特徴であり難所となるのが、敵の侵入を防ぐために設計された「急勾配の階段」です。福井県の丸岡城は階段傾斜が約67度におよび、階段脇に備え付けられたロープを握りしめながら登り降りしなければなりません。国宝の松本城や犬山城でも階段傾斜は60度前後に達し、手荷物を持った状態での昇降は想像以上の体力を要します。
また、現存天守は文化財保護の観点から空調設備が一切設置されていません。夏は蒸し風呂のような猛暑となり、冬は板張りから底冷えが押し寄せます。スリッパの着用が禁止され、靴下履きでの見学が基本となる城も多いため、季節に応じた服装の工夫や滑りにくい靴下の選定が不可欠です。
しかし、その不便さの先にある景観とディテールは圧巻です。犬山城の最上階では、手すりが低くスリリングな廻縁(バルコニー)から木曽川の絶景を望むことができ、松江城では籠城戦を想定した地下井戸や「包板(つつみいた)」による巨大な柱の補強跡を間近で観察できます。当時の武士たちがどのような防衛意識を持っていたのか、現場のリアルなスケール感とともに五感で体感できます。