猫愛好家や獣医学関係者の間で、オッドアイ(左右の虹彩の色が異なる状態)を持つ黒猫は「極めて遭遇が困難な存在」として知られています。一般的な白猫の場合、オッドアイの発現率は約20%〜40%と決して珍しくありません。これに対し、全身が真っ黒な被毛を持つ猫におけるオッドアイの出現確率は、臨床データや繁殖統計から見ても数万分の1(0.01%未満)と推計されています。
この圧倒的な出現率の差を生み出しているのが、体毛と虹彩の色を決定づけるメラニン色素の沈着プロセスです。白猫のオッドアイは、白色遺伝子(W遺伝子)や白斑遺伝子(S遺伝子)がメラノサイト(色素細胞)の増殖・遊走を抑制することで発生します。胚発生の段階で片方の眼球に色素細胞が届かなかった場合、色素のない「ブルーアイ」となり、もう片方に正常に色素が届けば「イエロー」「ゴールド」「カッパー」などの色になります。
一方で、黒猫は全身に十分なメラニン色素を行き渡らせる強力な遺伝情報を持っています。体毛の隅々まで黒色メラニン(ユーメラニン)を行き渡らせる能力を持ちながら、なぜか片方の虹彩だけ色素が極端に欠乏するという事象は、通常の遺伝的プログラムでは基本的に起こり得ません。これが、黒猫のオッドアイが「遺伝学上の奇跡」と称される根本的な理由です。