実際に無礼討ちが正当な行為として認められるためには、現代の正当防衛をはるかに凌ぐ過酷な条件をクリアしなければなりませんでした。
町奉行所による吟味(取り調べ)で正当性が認められなかった場合、その武士には「切腹」「斬首」「改易(家名断絶・所領没収)」という破滅的な結末が待っていました。
- 条件1:受忍限度を超えた重大な無礼・狼藉であること
単に肩がぶつかった、挨拶をしなかった程度では成立しません。「泥を投げつけられる」「公衆の面前で激しい罵声を浴びせられる」「刃物や凶器を向けられる」など、客観的に名誉や身体が著しく侵害された事実が必要です。 - 条件2:その場での即時行使(現行性)であること
無礼を働かれた「その場・その瞬間」に斬らなければ無効とされました。「後から腹が立ったので追いかけて斬った」「翌日待ち伏せして仕返しした」場合は、無礼討ちではなく「私闘・殺人」とみなされ処罰対象になりました。 - 条件3:第三者(目撃者)の証言が存在すること
最も高いハードルがこれです。現場にいた町人や周囲の通行人による「確かに町人側が酷い無礼を働いていた」という客観的な裏付け証言が不可欠でした。町人同士の結束は固く、武士側に不利な証言をされるケースも多々ありました。 - 条件4:即座の自首と刀の差し出し(届出義務)
無礼討ちを行った武士は、現場から逃走せず、直ちに役所へ自首して刀を提出し、自宅謹慎(閉門・遠慮)の身となって取り調べを待たなければなりませんでした。 - 条件5:相手を取り逃がさず完全に討ち果たすこと
相手に手傷を負わせただけで逃げられたり、返り討ちに遭ったりした場合、「武士の面目を失墜させた」として無能を咎められ、処罰の対象になることすらありました。