常田大希の底知れない音楽的背景を語る上で欠かせないのが、その特異な学歴と家族環境です。長野県伊那北高校という県内屈指の進学校を卒業後、国内の芸術系大学の最高峰である東京藝術大学音楽学部器楽科チェロ専攻へと現役合格を果たしました。長野県育ちの青年が、極めて狭き門とされる藝大チェロ科の椅子を勝ち取った事実だけでも、その演奏能力が国内トップレベルであったことを証明しています。
しかし、常田は入学からわずか1年足らずで藝大を中退します。この東京藝大中退の驚愕エピソードについて、本人は過去の特番インタビューや手記で明確な意図を語っています。
「クラシック音楽の歴史や技術には計り知れない敬意を持っているが、大学という象牙の塔の中で既存の譜面を完璧になぞる訓練に何年も費やすことに対して、猛烈な違和感を抱いた。世界基準のカルチャーを動かす現場はストリートや大衆音楽の最前線にあり、早く社会に出て自らの音楽を鳴らさなければ手遅れになるという焦燥感があった」という趣旨の告白を残しています。在学中には、世界的指揮者・小澤征爾が主宰する「小澤国際室内楽アカデミー」にチェリストとして選抜参加した実績すらありながら、その輝かしいレールを自ら叩き割って街頭のビートメイキングへと身を投じました。
このアグレッシブな決断を支えた家族の存在も特筆に値します。父はロボットエンジニアでジャズピアノを弾き、母はクラシックピアノの教師という音楽一家。そして2歳年上の実兄・常田俊太郎は、東京大学工学部を卒業した俊才でありながら卓越したヴァイオリニストであり、現在は音楽系デジタルプラットフォームを展開する株式会社ユートニックの代表取締役を務めています。King GnuやMILLENNIUM PARADEの壮大なストリングスアレンジにおいて、兄・俊太郎の演奏とスコアリングは不可欠のピースであり、「東大卒の実業家ヴァイオリニスト×藝大中退のロックスター」という奇跡的な兄弟のシナジーが、作品の骨格を強固に支えています。