「契約書の表題は『業務委託契約書(請負型)』。しかし実態は、毎朝9時の朝礼への強制参加、タイムカードでの分単位の拘束、社内チャットツールでのリアルタイムな業務指示……」
都内のソフトウェア開発企業で働いていた元業務委託エンジニア(30代男性)は、自らの体験をこう語ります。「何か疑問を口にすれば『請負なんだから自己責任で終わらせろ』と突き放され、他方で作業の順序や座る席まで指定される。労働者としての保護は一切なく、残業代もゼロ。都合の良い労働力として使い倒された」
こうした状況は、労働法上で厳格に禁止されている「偽装請負」の典型例です。偽装請負とは、形式的には請負契約を装いながら、実態としては労働者派遣や労働契約のように発注者が労働者へ直接指揮命令を行っている違法状態を指します。労働基準法による労働時間規制や社会保険料の企業負担、派遣法が課す事業許可の取得義務などを脱法する手段として悪用されてきた経緯があります。
厚生労働省が定める「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(37号告示)」に基づき、労働局が立ち入り調査で確認する実質的な判断基準は主に以下の項目です。
- 業務遂行の指示権:発注者が受託者の作業員に直接、仕事の順序や方法を指定していないか。
- 労働時間の管理:出退勤時間や休憩時間の指定・拘束、有給取得の承認などを行っていないか。
- 機材・経費の負担:業務に使用するPCや専用工具、作業スペースを発注元が無償提供し、実質的に発注元の設備に依存していないか。
- 専門性・独立性:単なる労務の提供ではなく、受託者自身の企画や高度な専門技術に基づいて仕事が完結しているか。
2026年に入り、労働行政はデジタルツールを介した「見えない指示」に対してもメスを入れています。SlackやTeamsでの頻繁な作業進捗確認や即時レスポンスの強要も、実質的な指揮命令の有力な証拠として認定される事例が増加しています。偽装請負と判定された場合、職業安定法44条違反(労働者供給事業の禁止)や派遣法違反として、是正勧告だけでなく「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」という重い刑事罰が科されるリスクがあります。