「権八 西麻布」を語る上で欠かせないのが、世界中を驚かせた2つの歴史的エピソードです。国内外のメディアで幾度となく取り上げられてきたその背景には、単なる飲食店にとどまらない強烈な文化的求心力があります。
1つ目は、映画界の鬼才クエンティン・タランティーノ監督との関わりです。監督が来日時に同店を訪れてその立体的な吹き抜け構造と江戸情緒あふれる空間美に圧倒され、映画『キル・ビル Vol.1』(2003年公開)のクライマックスである青葉屋(The House of Blue Leaves)の決闘シーンのモデルとして採用しました。実際の撮影は北京に設営された精巧な巨大セットで行われましたが、店舗中央の調理場を取り囲むカウンターや2階の回廊席のレイアウトは、まさに劇中の世界観そのものです。
2つ目は、2002年2月に開催された小泉純一郎元首相とジョージ・W・ブッシュ元米大統領による日米首脳会談、通称「居酒屋会談」です。堅苦しい迎賓館ではなく、日本の大衆食文化を象徴する権八が選ばれたことは当時世界中で大々的に報じられました。両首脳がネクタイを外し、焼き鳥や天ぷらに舌鼓を打ちながら乾杯を交わした現場として、現在も海外からの要人や旅行者にとっての巡礼地となっています。