群青色の歴史を語る上で欠かせないのが、日本画の最重要顔料である「岩群青(いわぐんじょう)」の存在です。 岩群青の主原料は、炭酸銅鉱物である「藍銅鉱(アズライト/Azurite)」。孔雀石(マラカイト)と共生することが多いこの鉱石は、粉砕する粒子の細かさによって発色が劇的に変化します。
- 粒子が粗い(5番〜7番など):光の乱反射が少なく、深く重厚な濃紺に近い群青色となる。
- 粒子が細かい(11番〜13番、白番など):光が強く散乱し、淡い空色のような「白群(びゃくぐん)」へと変化する。
法隆寺金堂壁画や正倉院宝物の調度品、狩野派や尾形光琳の屏風絵に至るまで、千数百年の風雪に耐えて褪色しない不変の輝きを保ち続けているのは、天然鉱物絵の具ならではの強靭な耐光性によるものです。 一方、ヨーロッパ美術史における至高の青「ウルトラマリンブルー(海を越えてきた青)」は、アフガニスタン産のアフガン石・ラピスラズリ(瑠璃)を原料としてフェルメールらの名画を彩りました。明治以降、西洋から安価で鮮明な人工ウルトラマリン顔料(合成ケイ酸アルミニウム)が輸入されると、これが日本国内で「群青色」の訳語とともに普及したため、今日では「藍銅鉱由来の和の群青」と「ラピスラズリ由来の洋のウルトラマリン」が同一視される複雑な文化的交錯が生まれています。