重厚でシリアスなドラマが続く中で、強烈な異彩を放つのがテナルディエ夫妻だ。小さな酒場を営みながら客のポケットを探り、預かった幼いコゼットを徹底的に虐待していた悪徳夫婦。彼らの辞書に倫理や道徳という言葉は存在しない。あるのはただ「どんな手を使っても自分が生き残る」という生々しい野心と強欲さだけだ。
彼らは物語の狂言回しであり、社会の底辺に蠢く人間のしぶとさを体現している。パリの地下水道で死体から指輪や金を剥ぎ取るテナルディエの姿は醜悪そのものだが、同時に時代の波に踏みにじられた民衆の生き残り策でもある。バルジャンやジャベールという重い信念を背負った男たちと鮮烈な対比をなすことで、彼らのコミカルかつ醜悪な存在感が劇的な立体感を生み出している。