人類補完計画を極めてわかりやすく要約すれば、「心と肉体に限界を抱えた人類を、人工的な儀式によって単一の神に近い完全な生命体へと作り変える計画」です。作中世界の人類(リリン)は、他者と自分を隔てるATフィールド(心の壁)を持つことで個人の自我を保っていますが、それゆえに互いを完全に理解できず、孤独や恐怖、争いを生み出し続けています。この根源的な苦しみから解放されるため、全人類の肉体をLCL(生命のスープ)へと還元し、魂をひとつに溶け合わせようとしたのが計画の根底にある思想です。
しかし、計画を推進する最高幹部組織「ゼーレ」と、現場の指揮を執る「碇ゲンドウ」の間には、決して相容れない目的の乖離が存在していました。
ゼーレにとっての人類補完計画は、宗教的な選民思想に基づく「人類救済」でした。太古の昔に禁断の「知恵の実」を口にした人類は、滅びゆく宿命にあるため、使徒が持つ「生命の実」を取り込んで完全な神の領域へ昇華するしか生き残る道はないと考えていたのです。彼らにとってサードインパクトは破滅ではなく、不可避の神聖な通過儀礼でした。
対してゲンドウの行動原理は、きわめて個人的かつ感情的でした。世界がどうなろうと知ったことではなく、自らの世界そのものであった碇ユイとの再会を果たすためだけに、ゼーレの計画を乗っ取り、使徒や同僚、果ては実の息子であるシンジすらも駒として冷徹に利用し続けたのです。