初めてどんぶりの蓋を開けた瞬間、誰もがその色に一目置く。一般的な天丼の黄金色とは一線を画す、まるで黒漆を塗ったかのようなつややかな衣。これがこの店の代名詞である黒天丼だ。一見すると味が濃すぎるのではないかという疑念が頭をよぎるが、箸を進めるとその偏見は瞬時に吹き飛ぶ。
香ばしい胡麻油でからりと揚げられた海老や穴子、きす、野菜たちが、長年継ぎ足されてきた秘伝のタレをたっぷりと纏っている。コクがあるのにしつこくなく、キリッとした醤油のキレとほのかな甘みが、炊きたての白飯と見事なハーモニーを奏でる。見た目の重厚さと食べた時の軽やかさ——このギャップこそが、半世紀にわたり客の胃袋を掴んで離さない最大の秘密なのだ。