かつて統計上で目立たなかった「老衰」が、なぜ心疾患に迫る勢いで急増しているのでしょうか。この背景には、単なる平均寿命の延伸だけではなく、医療現場における終末期診断のパラダイムシフトが存在します。
大学病院の総合診療医や在宅緩和ケアに携わる医師らの証言によると、以前は高齢者が多臓器不全や肺炎で亡くなった場合、直接の引き金となった疾患名を死亡診断書に記載するケースが一般的でした。しかし、積極的な延命治療を行わずに自然な経過を見守る「平穏死」や在宅看取りの選択肢が浸透したことで、特定の臓器不全ではなく加齢に伴う生命維持機能の自然な減衰を「老衰」と正しく診断する医師が増加しました。
SNSや医療相談コミュニティでも「無理な胃ろうや点滴を避け、自宅や介護施設で静かに見送る選択をした」という遺族の声が数多く寄せられています。過度な医療介入を控えて本人の尊厳を尊重する看取り文化の定着が、老衰という死因統計の急激な押し上げ要因となっています。