山の高さに関する議論において、世間一般で見落とされがちなのが「標高はいかにして決定されているのか」という科学的背景です。
富士山の標高は一般に「3,776m」と周知されていますが、この数値は富士山火口の南西縁に位置する最高峰峰頭「剣ヶ峰(けんがみね)」に設置された二等三角点の標高(3,775.51m)およびその岩頭最高部(3,776.12m)を端数処理したものです。お鉢巡りで訪れる火口縁でも、久須志岳(3,725m)や白山岳(3,756m)など地点によって数十メートルの標高差が存在します。
さらに注目すべきは、近年の測量技術の進化に伴う順位の変動です。国土地理院は2014年4月、衛星測位システム(GNSS)や航空レーザー測量データの高精度化を反映し、全国87の主要な山の標高を改訂しました。この際、南アルプスの間ノ岳(あいのだけ)の標高が従来の3,189mから1m引き上げられて3,190mとなったことで、それまで単独3位だった北アルプスの奥穂高岳と同率3位に並ぶという地理学的一大イベントが発生しました。「山の高さは不変」という固定観念は、現代の精密測量の前では通用しません。
一方、最高峰の対極としてネット上でも頻繁に話題となるのが「日本一低い山」の存在です。現在、国土地理院発行の2万5千分1地形図に掲載されている日本一低い山は、宮城県仙台市宮城野区にある「日和山(ひよりやま)」です。標高わずか3mの日和山は、もともと標高6.05mの築山でしたが、2011年の東日本大震災の津波によって削られ、2014年の調査で3mの山として再認定されました。人工の山(築山)か自然の山かという議論(徳島県の弁天山・標高6.1mなどが自然の山としての代表例)はあるものの、ミリ単位のGNSS衛星測量によって「最も高い山」と「最も低い山」の双方が公的に厳密管理されている点に、日本の地理行政の精緻さが表れています。