多くの人が混同しやすい「大統領(President)」と「首相(Prime Minister)」ですが、その法的位置づけと行使できる権力構造には明確な境界線が存在します。
アメリカ大統領に代表される大統領制のリーダーは、国家元首(Head of State)と行政府の長(Head of Government)を一手に兼任します。軍の最高司令官であり、議会を通過した法案に対する「拒否権」を持ち、自らの判断で「大統領令」を発令して即時に政策を推進する圧倒的な単独執行権を有しています。ただし、大統領には議会を解散する権限はありません。
対する日本の内閣総理大臣の役割は、「内閣の首長」として行政各部を指揮監督すること(憲法第72条)です。法案や重要政策の決定には原則として全閣僚の同意による「閣議決定」が必要であり、独断専行を防ぐ合議制の色彩を帯びています。しかし、首相には大統領にはない強力無比な権能があります。それが「衆議院の解散権(憲法第7条解釈および第69条)」です。政策に行き詰まった際や民意を問うべき局面において、首相は自らの判断で国会を解散し、総選挙に持ち込むことができます。
このようにアメリカ大統領と日本の首相の権限比較を行うと、一見すると大統領の方が強大な権力を持つように見えますが、議会との関係性においては「与党多数派に支えられた日本の首相」の方が、内閣提出法案を確実に成立させられる点で政策実現スピードが速い局面も多々あります。歴代内閣総理大臣の権能の変遷を見ても、1990年代以降の内閣機能強化(内閣府設置や国家安全保障会議の創設)により、現代の首相は以前よりも強力な官邸主導のリーダーシップを発揮できる環境が整っています。