結論から明確にすると、四字熟語としての日本語表記は「日常茶飯事(にちじょうさはんじ)」が唯一の正解です。「日常茶飯時」と記すのは、国語学上、明らかな誤字・誤用に分類されます。PCやスマートフォンの文字入力でも、「にちじょうさはんじ」と打ち込めば一発で変換されるのに対し、「にちじょうさはんとき」あるいは「じ」で無理やり「時」を当てようとすると変換候補にすら登場しないのはこのためです。
それにもかかわらず、なぜこれほどまでに「日常茶飯時」という表記が世間に浸透してしまったのでしょうか。言語心理学や編集現場の校正データから浮かび上がる日常茶飯時の誤用の理由には、主に2つの心理的トラップが存在します。
第1の要因は、圧倒的な「同音異義語による音韻の引きずられ」です。「事」も「時」も音読みでは同じ「ジ(ji)」と発音します。人間の脳はタイピングや手書きの際、耳で聴いた音を頭の中で再生しながら出力するため、「日常」という時間軸を表す名詞に引っ張られ、無意識に「時」の字を割り振ってしまうのです。
第2の要因は、意味の連想ミスです。「日常に起きるありふれた出来事」を意味する語であるため、「日常茶飯」のあとに続く文字を「普段の(時)間」と勝手に意味づけてしまう認知バイアスが働きます。大手ポータルサイトの知恵袋やQ&Aコミュニティでも、「上司から送られてきたメールに日常茶飯時と書かれていて返信に困った」「どちらが正しいのか長年モヤモヤしていた」という相談が定期的に投稿されており、ビジネスパーソンであっても油断すると足元をすくわれる罠となっています。