メインカードのゴングが鳴った直後から、リング上の空気は鋭く張りつめていた。王者が得意とする距離感を保ちながら軽快なステップで牽制を重ねる中、挑戦者はあえてガードを低く設定する独特の立ち回りを見せる。一見すると危険極まりないその姿勢は、王者の強烈な右ストレートを誘い出すための緻密に計算された罠だった。
2ラウンド3分過、王者が満を持して踏み込んで放った渾身の右。しかし挑戦者はわずか数センチ頭部を外側へ滑らせ、そのすれ違いざまに左フックを完璧なタイミングで叩き込んだ。意識を刈り取る一撃。王者の膝が崩れ落ちるのとほぼ同時にレフェリーが身体を投げ出して試合を止めた。勝負を決したのは、まさに0.5秒の判断と度胸の違いだった。