1972年、大阪府大阪市東住吉区。大西家の長男として生を受けた男児に与えられたのが「賢示」という名だった。賢く、正しく物事を示せる人間になってほしい――。厳格な父が込めた願いは、男らしさを重んじる昭和の家庭観そのものだった。
しかし、成長とともに賢示少年の内面には違和感が芽生え始める。手に取るのは女の子の人形やおままごとセット。近所の歌唱コンテストでマイクを握り、ピンク・レディーを完コピして踊る姿に、周囲の大人たちは驚きと戸惑いを隠せなかった。男らしく育てようとする父親との衝突は激しさを増し、家庭内での緊張は幼心に深い孤独の影を落としていく。それでも、賢示という名に込められた家族の想いを、彼女自身が完全に否定することは決してなかった。