この場面がこれほどまでに読者の心を激しく揺さぶる背景には、ナミが背負ってきたあまりにも過酷な8年間の地獄があります。魚人海賊アーロンの武力によって故郷ココヤシ村を支配され、育ての親であるベルメールを目の前で惨殺されたナミ。彼女は「1億ベリーで村を買い戻す」というアーロンとの契約を信じ、村人たちを守るために自ら泥棒となり、アーロン海賊団の幹部として裏切り者の汚名を一身に背負い続けました。
しかし、目標額である1億ベリーが目前に迫った第80話、アーロンと結託した海軍支部第16支部大佐ネズミによって、隠し財産はすべて理不尽に強奪されます。最初から村を返す気など微塵もなかったアーロンの卑劣な罠に気付いたナミは、絶望と怒りのあまり、アーロンの刺青が刻まれた自身の左腕をナイフで何度も狂ったように刺し続けます。
自傷行為に及ぶナミの手を無言でガッシリと掴み、制止したのがルフィでした。それまで「あんた達には関係ないから島から出て行って」と虚勢を張り続けていたナミが、ついに崩れ落ち、涙を流しながら絞り出したのが「ルフィ……助けて…」という一言でした。
ナミの救難信号を受け取ったルフィは、言葉で慰めることはしませんでした。自らの頭から外した麦わら帽子を、静かにナミの頭へと被せます。この麦わら帽子は、かつて四皇シャンクスから「いつか立派な海賊になって返しに来い」と託された、ルフィにとって「命よりも重い最大の宝物」です。普段は仲間にすら絶対に触らせないその象徴をナミに預けた行為は、単なる預かり物ではありません。「お前は俺の仲間であり、お前の痛みを俺がすべて背負う」という絶対的な誓いであり、無言の契約だったのです。
そして背を向けたルフィは、空を仰ぎ、全身の筋肉を震わせて「当たり前だ!!!!!」と絶叫します。その直後、遠巻きに静かに待機していたロロノア・ゾロ、サンジ、ウソップの3人が姿を現し、ルフィの「行くぞ」の合図とともにアーロンパークへと堂々の行進を開始します。個人の絶望が麦わらの一味全員の怒りへと昇華されたこの瞬間、読者のカタルシスは頂点に達しました。