三代目 J SOUL BROTHERS(以下、三代目JSB)のディスコグラフィにおいて、「花」という言葉から真っ先に引き合わされるのが、2012年8月8日にリリースされた通算7枚目のシングル『花火』です。同曲はグループにとって初の「NHK紅白歌合戦」出場曲であり、「第54回日本レコード大賞」優秀作品賞を受賞した、まさにブレイクの決定打となった金字塔です。
『花火』を語る上で欠かせない最大の特異点は、男性ツインボーカルでありながら「女性の一人称(私)」で綴られた切ない歌詞にあります。作詞を手掛けたのは、EXILE TRIBEの数々の名曲に魂を吹き込んできた詩人・作詞家の小竹正人氏。歌詞中には「男心」ではなく、「好きで好きでたまらないのに決して結ばれない」「夏の終わりに線香花火が落ちるように消えていく」という、身悶えするような女性の未練と情念が赤裸々に描かれています。
当時、関係者の証言や音楽メディアのインタビュー取材において、小竹氏は「男性が女性言葉の歌を歌うことで生じる、倒錯的で痛々しいほどのエロティシズムと純粋性」を狙いとして語っています。男臭い肉体美とストリート感を持つパフォーマー集団が、ひとりの傷ついた女性の告白を代弁するというギャップ。これが聴く者の胸を強く締め付け、女性リスナーを中心に爆発的な共感を呼び起こしました。
さらに、この楽曲の世界観を完璧なビジュアルへと昇華させたのが、写真家・映画監督の蜷川実花氏が手掛けたMVです。金魚、鮮烈な極彩色、夜の闇に浮かび上がる妖艶な照明。蜷川実花ワールド全開の映像美のなかで、ボーカルの今市隆二と登坂広臣、そしてパフォーマーたちが濡れたような憂いを帯びた視線を見せ、それまでの「武骨なEXILEの後継者」というパブリックイメージを一変させました。一部ファンの間では「メンバーの実体験や特定の恋愛スキャンダルをモチーフにしたのではないか」という憶測も飛び交いましたが、真相は小竹正人氏の卓越したフィクション構築力と、蜷川実花氏の耽美的な演出意図が融合した、極めて純度の高い芸術的コラボレーションでした。