「1つの機関が法律を作って、自分で実行し、自分で正しいと判定すれば、政治のスピードは格段に上がるのではないか」という疑問は、効率性を求めるビジネスパーソンからも度々投げかけられます。しかし、歴史が証明した冷徹な真実は「権力は必ず腐敗し、集中した権力は国民へ牙を剥く」という人間社会の法則でした。
三権分立の基礎理論を打ち立てたのは、18世紀フランスの思想家シャルル・ド・モンテスキューです。主著『法の精神』(1748年)の中で、モンテスキューは英国の政治体制を詳細に分析し、次のような決定的な指摘を残しています。
「権力を持つ者は、限界にぶつかるまでそれを濫用する傾向がある。権力の濫用を防ぐためには、事物の配置によって、権力が権力を阻止するようにしなければならない」
この考え方が英語圏で「Checks and Balances(抑制と均衡)」と呼ばれ、近代国家の骨格となりました。もし立法権と行政権が合体すれば、支配者は自分たちに都合の良い悪法を作り、恣意的に執行できます。さらに司法権まで同じ手中に収まれば、裁判官は支配者の手下となり、無実の市民を合法的に投獄できるようになります。三権分立とは、政策決定の効率を犠牲にしてでも、国民の自由と人権を絶対に守り抜くためのフェイルセーフ設計なのです。