張本勲氏が2026年限りで番組を去った背景には、単なる「81歳という高齢」だけではない、放送倫理とSNS社会の急激な地殻変動がありました。長年にわたって親しまれた「歯に衣着せぬ辛口批評」は、インターネットの普及とともに「失言」「炎上」のターゲットへと変貌していったのです。
決定的となったのは、2026年8月8日の生放送でした。東京五輪のボクシング女子フェザー級で金メダルを獲得した入江聖奈選手に対し、張本氏が発した「女性でも殴り合い好きな人がいるんだね。見ててどうするのかな。嫁入り前のお嬢ちゃんが顔を殴り合ってね」というコメントです。この発言は放送直後からSNSで激しい批判を浴び、日本ボクシング連盟がTBSに対して厳重な抗議文を提出する事態へと発展しました。番組側は翌週の放送で関口宏氏とアナウンサーによる謝罪文の代読に追い込まれ、張本氏本人も謝罪コメントを出したものの、スポンサー企業や世論の反発は収まりませんでした。
当時、番組の舞台裏を取材した関係者の証言によると、張本氏の発言に対する抗議はこれ以前から積み重なっていました。以下は、歴代の主な炎上トピックです:
- 三浦知良選手への勇退勧告(2015年):「カズファンには悪いけど、もうお辞めなさい。若い選手に席を譲らないと」と発言。カズ本人が「もっと頑張れと言われていると思ってやる」と大人の神対応を見せたことで騒動は沈静化したものの、ファンの反感を買った。
- 佐々木朗希投手の甲子園登板回避批判(2019年):大船渡高校時代の佐々木投手が故障予防のため岩手大会決勝で登板しなかったことに対し、「投げさせなきゃダメ。苦しい時の経験が将来生きる」と根性論を展開。現役メジャーリーガーだったダルビッシュ有投手がSNSで「シェールガスが出たかと思った」と皮肉を交えて反論するなど、プロ・アマ問わず激論に発展。
- 中央大学陸上部への誤認批判(2016年):箱根駅伝予選会で中央大学が予選落ちした際、「内紛がある」と根拠の乏しい発言を行い、後に中大OBや関係者からの抗議を受けて番組内で謝罪・訂正。
これらの炎上劇は、昭和のプロ野球界を生き抜いた「耐え抜くことこそ美徳」「男らしさ・女らしさの固定観念」という張本氏の価値観と、コンプライアンスやアスリートファーストを重んじる令和の社会的規範との間に生じた決定的な乖離を示していました。制作陣にとっても、世帯視聴率12〜14%を稼ぎ出す功労者へのリスペクトを維持しつつも、スポンサー離れのリスクを無視できない限界点に達していたのが2026年冬の偽らざる真相でした。