電子レンジで加熱した鶏肉が縮んで固くなってしまう現象には、明確な調理科学の理由が存在します。電子レンジのマイクロ波は、食材に含まれる水分子を毎秒約24億5000万回振動させて摩擦熱を生み出す仕組みです。この急激なエネルギー伝達が、鶏肉の構造に深刻なダメージを与えてしまいます。
日本食品科学工学会などの肉類加熱研究データを参照すると、鶏肉の筋肉タンパク質(ミオシンやアクチン)は60度から65度付近で凝固を開始し、68度を超えると急激に収縮して内部の細胞間水分を外へ力強く絞り出してしまいます。フライパンや鍋による間接的な熱伝導と異なり、レンジは肉の内部から一気に温度を急上昇させるため、肉汁を閉じ込める間もなく水分が蒸発し、繊維だけが硬直してパサパサの食感に陥るわけです。
さらに鶏もも肉は、部位によって厚みが不均一です。薄い端の部分はすでに100度近くまで過加熱されて水分が枯渇している一方で、中心の分厚い部分は熱が届きにくいという「加熱ムラ」が極端に発生しやすい特性を持っています。この特性を無視して一気に強出力で温め切ろうとすることこそが、肉質をゴム化させる最大の落とし穴です。