山本屋本店を語る上で欠かせないのが、席に着くとすぐに運ばれてくる大皿の「自家製浅漬け」です。白菜、きゅうり、大根などが彩り豊かに盛られたこの漬物は、うどんが運ばれてくるまでの前菜でありながら、無料でおかわり自由という破格のサービスとなっています。
テーブルに備え付けられている専用の「刻み玉ねぎ入り白だし醤油」を一筋垂らして口に運ぶと、みずみずしい野菜の甘みと玉ねぎの香味が見事に調和します。濃厚極まる味噌煮込みうどんを食べ進める合間にこの浅漬けを挟むことで、口の中の油分と塩分が心地よくリセットされ、最後まで飽きることなく出汁の旨味を堪能できる計算された仕掛けです。スタッフの目配りも行き届いており、器が空になりかけると「おかわりはいかがですか?」と自然に声をかけてくれるホスピタリティも高く評価されています。
そしてもう一つ、初めて訪れる人が戸惑うのが「土鍋の蓋に空気穴が開いていない」という点です。
これには明確な理由があります。運ばれてきた直後の味噌煮込みうどんは、スープがマグマのように沸騰しており、そのまま口に運べば間違いなく火傷を負います。そこで、穴の開いていない土鍋の蓋をひっくり返し、手元で「取り皿」として使用するのが山本屋本店の伝統的な作法です。
熱々の麺を数本、蓋の上に移し、味噌出汁を適量すくって冷ましながら食べる。さらに、土鍋の底に沈めておいた半熟卵を蓋の上で崩し、麺に絡めてすする。この一連の所作こそが、名古屋の食通たちが愛してやまない至高の食べ方です。