この事件が日本の社会構造に与えた影響は極めて大きかった。事件発生当時、生食用牛肉に関する安全基準は強制力のない「指導要領」にとどまっていた。しかし、痛ましい犠牲を受けて厚生労働省は迅速に動き、規制の抜本的強化へと踏み切る。
食品衛生法に基づく規格基準が改正され、生食用牛肉の提供には極めて厳格な加熱処理設備や専用調理場の設置、微生物検査が罰則付きで義務付けられた。事実上、居酒屋や一般的な焼肉店で気軽に生ユッケを提供することは不可能となり、現在私たちが目にする生用肉の多くはパック詰め加熱処理が施された高価格帯のものに限られるようになった。一つの企業の失態が、国家レベルの食文化と法律を塗り替えた瞬間であった。