省庁の審議会関係者や地方自治体のインフラ計画担当者への取材を進めると、机上の数値目標と現実の乖離に対する切実な証言が浮かび上がってきます。関東地方の河川整備計画に携わるベテラン技術官は、次のように現場の苦悩を吐露します。
「100年に一度の大水害を想定した大規模放水路や遊水地の整備は、完成までに20年以上を要し、効果が発揮されるのは数十年から100年先です。しかし、現行の公共事業評価マニュアルに従って4%で将来便益を割り引くと、便益額が削ぎ落とされ、費用便益比がどうしても1.0を下回ってしまう。結果として、30年程度の短期で投資回収が見込める小手先の道路拡幅や短期改修ばかりが優先採択され、真に地域を百年の大計で守るインフラ整備が後回しにされてきたのが実情です」
さらにSNSや市民団体の間でも、この計算ルールに対する不信感が噴き出しています。「国交省のB/C計算は数字合わせのブラックボックスではないか」「税金を投入すべき脱炭素インフラが、古い4%ルールのせいで門前払いされている」といった批判の声がネットコミュニティでも急速に可視化されつつあります。現場が直面しているのは、単なる計算式の問題ではなく、「50年後の国民の生命を現在価値いくらと見積もるのか」という国家の倫理的姿勢そのものです。