旭川市中心部から車で約20分、国道12号沿いに位置する神居古潭は、アイヌ語で「カムイ(神)コタン(集落・場所)」を意味する名勝です。しかし、アイヌの伝承においてこの地は単なる神聖な場所ではなく、「魔神(英雄神と戦った悪神)が住まう恐ろしい激流」として語り継がれてきました。かつて丸木舟で石狩川を行き来していた先住民族にとって、この峡谷は一度舟が転覆すれば二度と生きては戻れない最大の難所だったのです。
近代以降も、鉄道の開削や道路整備に伴う難工事、そして石狩川での水難事故が絶えませんでした。特に昭和から平成、そして令和に至るまで、神居古潭の事件経緯を辿ると、痛ましい転落や水難、自死、さらには他殺事件といった極めて深刻な事象が記録されています。地元関係者や河川工学の専門家が指摘するのは、「景勝地としての親しみやすさ」と「足元に潜む致死的な自然の脅威」が背中合わせになっている特異性です。
観光地として遊歩道や駐車場が整備されているため、来訪者は深い危険を意識せずに水際や吊り橋の突端へと近づいてしまいます。しかし一歩踏み外せば、そこは巨大な天然のすり鉢状峡谷であり、脱出不可能な急流が待ち受けています。この心理的な油断と過酷な物理環境のギャップこそが、悲劇を誘発し続ける根本原因に他なりません。