出雲大社に全国の神々が集結する根拠は、『古事記』や『日本書紀』に記された日本神話の最重要局面「国譲り(くにゆずり)」に端を発します。
天照大御神(アマテラスオオミカミ)をはじめとする高天原(天津神)の求めに応じ、地上界(葦原中国)の統治権を譲った大国主大神は、その代償として壮大な宮殿(現在の出雲大社)の造営と、ある重大な権限を委ねられました。それが「幽事(かくりごと)」の司掌です。目に見える現実世界の統治(顕事・あらわごと)は天津神の子孫である天皇が担い、目に見えない世界、すなわち人の運命、人と人との巡り合わせ、死後の霊魂の行方といった精神世界は大国主大神が司るという盟約が交わされたとされています。
この神話に基づき、年に一度、全国の神々が出雲大社に集まって開かれるのが「神議り(かみはかり)」と呼ばれる神聖な合議です。出雲大社の社伝や神職への取材によると、神議りで話し合われる内容は極めて広範に及びます。
- 人と人との「縁結び」:誰と誰が結婚するかという男女の縁はもちろん、誰と誰が出会い友人になるか、どのようなビジネスパートナーと巡り合うかといった人間関係の網の目。
- 来年の農作物と気候の配分:翌年の天候、雨量、風の吹き方、そして米や農作物の収穫高(豊凶)の決定。
- 産業と経済の発展:酒造りや漁業、商業の繁栄など、地域ごとの生業(なりわい)にまつわる命運。
出雲大社が「縁結びの総本山」と仰がれる理由は、単なる恋愛成就にとどまりません。私たちが日々生きる中で遭遇する「仕事のご縁」「住まう土地とのご縁」「人生を好転させる知人とのご縁」という、目に見えないすべての因果関係を調整・決定する場が、この神在月の神議りなのです。