日本の清涼飲料水市場において、1990年代後半から2000年代初頭にかけて起きた地殻変動の中心にいたのが佐藤章氏です。当時、缶コーヒー市場で後発だったキリンビバレッジにおいて、同氏は1999年に「FIRE(ファイア)」を企画・発売しました。「直火焙煎」という独自の切り口とスティーヴィー・ワンダーを起用した圧倒的な広告戦略を展開し、初年度から大ヒットを記録してシェアを急拡大させます。
その勢いは止まらず、翌2000年には緑茶飲料「生茶(なまちゃ)」を市場に投入しました。従来の緑茶製品の常識を覆す緑のボトルデザイン、そして「生」を強調したみずみずしい味わいで緑茶戦争の主役に躍り出ます。発売からわずか数か月で年間販売目標を突破したこの快挙は、業界内で「キリンの奇跡」と称されました。
佐藤氏が展開したマーケティング戦略の神髄は、単なるデータ分析に依存しない「生活者インサイトの徹底的な深掘り」にあります。会議室の数字だけを見るのではなく、自ら街頭や店舗に足を運んで生活者の行動や潜在的な不満を観察し、「顧客が言語化できていない本質的な欲求」を商品コンセプトへと昇華させる手腕は突出していました。