日本野球の歴史を振り返れば、言葉による心理戦は常に戦術の一部として存在していた。その最高峰として語り継がれるのが、捕手として一時代を築いた野村克也氏の「ささやき戦術」だ。打者の性格や私生活の隙を突き、集中力を削ぐ巧みな会話劇は、まさに頭脳戦の極みと言えた。相手を打倒するための観察眼とユーモアが裏打ちされたその言葉は、過激な暴言とは一線を画するプロの技術であった。
しかし、激闘が繰り広げられた昭和から平成のプロ野球ペナントレースでは、時にグラウンド内だけでなくスタンドからも目を覆いたくなるような過激な言葉が飛び交った。判定への不満から審判員へ投げつけられる怒号や、不調の主力選手に向けられた心ない誹謗中傷。当時のスポーツジャーナリズムはそれらを「名物ファンの威勢」として容認する傾向もあったが、時代が進むにつれ、言葉の持つ破壊力とハラスメントとしての側面が厳しく問われるようになっていく。