神戸の街で生まれ育った坂本花織が、初めてスケート靴を履いたのは4歳のときだった。NHKの連続テレビ小説を見てスケートに興味を持った天真爛漫な少女を、家族は惜しみない愛情で包み込んだ。とりわけ祖父は、孫娘が冷たいリンクで転んでも転んでも笑顔で立ち上がる姿を、誰よりも目を細めて見つめていたという。
早朝の送迎、手作りの防寒具、そしてリンクサイドからの静かな拍手。決して前に出しゃばることなく、ただ無心に氷と戯れる孫の未来を信じ続けた祖父の存在は、幼い坂本の心に「自分は愛されている」という絶対的な自己肯定感を植え付けた。失敗を恐れず、豪快にして繊細なスケーティングを繰り出す現在のプレースタイルは、この幼少期の揺るぎない安心感の中で育まれたものだ。