平安時代中期の宮廷社会を舞台とする本話は、丹後守・藤原保昌に嫁いで京を離れていた大歌人・和泉式部と、その娘で一条天皇の中宮・彰子に仕えていた小式部内侍(こしきぶのないし)を取り巻く人間ドラマです。
宮中で大規模な歌合が催されることになり、まだ若手歌人だった小式部内侍が詠み手(歌の作者)のひとりに抜擢されました。宮中の貴族たちは「母親が不在の今、あの若い娘にまともな歌が詠めるのか」「母に代作を頼むのではないか」と好奇と疑念の目を向けます。そんな折、当代屈指の貴公子で歌人としても名高かった中納言・藤原定頼(ふじわらのさだより)が、局(つぼね=宮中の私室)の前を通りかかり、小式部内侍に向かって失礼な冗談を投げかけます。
「丹後へ遣わした使者はもう帰ってきましたか? 母上からの歌の指南の手紙は届きましたか?」という露骨な侮辱に対し、小式部内侍は動じることなく、局の簾(すだれ)から身を乗り出して定頼の直衣(のうし)の袖を掴み、電光石火の早さで一首の和歌を詠みかけました。予想もしなかった見事な切り返しに圧倒された定頼は、返歌(へんか)をすることすらできず、赤面して逃げ去ってしまいます。