日本国内で進められている水道民営化の基本形態は、施設の所有権を自治体が保持したまま、運営権だけを民間に売却する「コンセッション方式」です。完全売却ではないため安全と説明されてきましたが、この方式特有の構造的な死角が存在します。
大きな懸念が、地震や豪雨などの大規模災害時における復旧対応の遅れです。公営水道であれば、全国の自治体水道局同士が結ぶ強固な相互応援協定に基づき、発災直後から全国から給水車や復旧部隊が集結します。しかし、民間企業が運営主体の地域では、指揮命令系統の多重化や契約範囲外の緊急対応を巡る責任分担の曖昧さが生じます。
「どこまでが事業者の負担で、どこからが自治体の追加補償か」という費用精算の協議が初動を鈍らせるリスクは否定できません。利益率の低い中山間部や過疎地域の復旧が後回しにされるのではないかという不安も根底にあります。
さらに、水質検査や日常メンテナンスの外注化が進むことで、日々の微細な異変を察知する現場力が劣化します。コスト削減のために水質検査項目の頻度を法的下限値まで落としたり、浄水汚泥の処理基準を緩めたりすることで、長期的には給水設備の寿命を縮め、予期せぬ水質事故を招くリスクが潜んでいます。