夏のあいだは25℃を超える本州沿岸も、12月を過ぎるとシベリア高気圧からの寒波によって急激に冷え込みます。死滅回遊魚が冬を越せない決定的な理由は、「変温動物としての生理的限界水温」にあります。
熱帯・亜熱帯性魚類の多くは、年間を通じて水温が20℃を下回らない環境に適応して進化してきました。水温が15℃前後に低下すると、まず消化酵素の活性が極端に落ち、餌を食べても消化できなくなります。さらに13℃を下回ると、自律神経や筋肉の収縮機能がマヒし、正常に泳ぎ続けることすら困難になります。体表の粘膜免疫が破綻して白点病などの感染症を併発し、最終的には水底に横たわって動かなくなる――これが、彼らの命が尽きるメカニズムです。
海流によって運ばれながらも、定着も帰還もできずに途絶えてしまうこの現象を、生態学では「無効分散(ineffective dispersal)」と呼びます。遺伝子を次の世代へ残せない無駄死にのように見えますが、地質学的スケールで見れば、温暖化や流路の変化によって生息域を北へ拡張するための「捨て身の尖兵」としての側面も併せ持っています。