江の島を訪れる旅行者の多くが抱く最大の誤解が、「江の島の有名店に行けば、いつでも獲れたての生しらすが食べられる」という思い込みです。大手グルメサイトの華やかな写真だけを見て現地に赴き、店頭の「本日の生しらす入荷なし」という張り紙を見て立ち尽くす姿は、いまや江の島名物とも言える光景になってしまっています。
この事態が生じる第一の決定打は、神奈川県が定める漁業調整規則に基づく江ノ島生しらす禁漁期間理由にあります。湘南の海では資源保護を目的として、毎年1月1日から3月10日前後まで、しらす漁が全面的に禁止されています。この約2か月半の間は、島内のいかなる老舗や有名店であっても、地場産の生しらすを提供することは法律上絶対に不可能です。冬場に提供されているしらす丼は、すべて事前に急速冷凍されたものか、加熱調理された釜揚げしらすである点を知っておかなければなりません。
第二の要因は、解禁期間中における江ノ島生しらす丼時期と入荷状況の不安定さです。しらす漁は極めて繊細な漁業であり、波の高さが1メートルを超えるシケの日や、強風が吹き荒れる日には船が出漁できません。観光客視点では「雲ひとつない快晴の行楽日和」であっても、沖合のうねりが強ければ漁は中止となります。さらに、船が出たとしても群れが回遊していなければ水揚げ量はゼロです。地元の片瀬漁港関係者は次のように内情を明かします。
「朝獲れたしらすは鮮度が命。午前中の水揚げ後、早ければ11時前後に各店へ配送されますが、群れが小さければわずか数十食分で完売します。午後2時を回って注文しようとしても、すでに売り切れているケースが大半です」
つまり、生しらすに出会えるかどうかは「禁漁期を避けること」「海の波予報を確認すること」「午前中に入店すること」という3つの条件が重なって初めて成立する極めて難易度の高いミッションなのです。