ベストセラーとなった『日本列島改造論』は、地方分散と豊かな日本を実現するための金字塔として持て囃された。だが、当時の自由民主党内部が一枚岩だったわけではない。党内ハト派の論客として知られた大平正芳をはじめとする財務・経済重視派は、過度なインフラ投資がもたらす猛烈なインフレと財政悪化に対して強い危機感を募らせていた。
党内における権力闘争は、単なる主導権争いにとどまらない。国土開発のスピード感を最優先するタカ派的開発主義と、マクロ経済の均衡を保とうとする慎重派の対立は、議事録には残らない夜の料亭政治で繰り広げられた。大平らが突きつけた懸念は、その後のオイルショックと「狂乱物価」という形で現実のものとなり、自民党政権の基盤を激しく揺さぶることとなった。