新海誠作品の大きな魅力の一つは、圧倒的な交通インフラの緻密な描写にある。『すずめの戸締まり』においても、九州から四国へと渡るフェリーのシークエンスは、旅立ちの緊張感と切なさを極限まで高める名シーンとなった。
鹿児島県から宮崎にかけての沿岸部は、古くから海上交通の要衝として発展してきた。劇中に登場する巨大なフェリーや活気あふれるフェリーターミナルの構造、そして船上から見渡す果てしない水平線は、現地を運航する実際の船舶や港湾施設がモデルとされている。船のエンジン音や波しぶき、デッキを掠める潮風——旅の生々しい手触りが、視聴者の旅心を強く突き動かす。