「神経を抜いた歯は一切の感覚を失うはずだ」と誤解されがちですが、医学的な解剖構造を見ると実態は異なります。神経を抜いたのに痛い理由の核心は、除去された歯髄(歯の内部の神経)ではなく、歯の根の周囲を取り囲んでいる「歯根膜(しこんまく)」という組織の存在にあります。
歯根膜は、歯槽骨(顎の骨)と歯の根(歯根)を繋ぐわずか0.2ミリメートルほどの極薄の線維性組織です。食事の際に噛み応えや硬さを敏感に感知する高度なセンサーであり、同時に強い衝撃を吸収するクッションの役割を果たしています。この歯根膜には無数の毛細血管と知覚神経が密に分布しているため、歯の内部の神経を取り除いたとしても、歯根膜が刺激を受ければ脳は明確な「激痛」「圧痛」として知覚します。
根管治療後に噛むと痛む具体的な発症経路は、主に以下の2つに大別されます。
第1に、器具による機械的刺激や薬剤による化学的刺激です。根管内は1ミリメートルにも満たない微細な管が複雑に枝分かれしており、歯科医師はリーマーやファイルと呼ばれる極小の器具を用いて感染部位を清掃します。その際、器具の先端が歯の根の先端(根尖孔)を微小に突いてしまったり、洗浄液・貼薬剤が根尖孔から外側の歯根膜へわずかに押し出されたりすることで、一時的な無菌性の急性歯根膜炎の症状と原因が引き起こされます。
第2に、もともと存在していた細菌感染の波及です。重度の虫歯によって細菌が歯根の先端まで達し、顎の骨の中で炎症を起こす根尖性歯周炎を患っていた場合、治療によって病巣が刺激され、一時的に炎症反応が激化することがあります。これが、食事で上下の歯が接触した瞬間に歯根膜が圧迫され、「噛むと飛び上がるほど痛い」という症状となって現れるのです。