【プロの結論】悲しみを共有することで生まれた集団的レジリエンス
大衆心理学およびトラウマケアの観点から見ると、『かえり船』の流行は、敗戦という未曾有の集団的トラウマを抱えた日本社会において、極めて重要な心理的治癒の役割を果たしていました。
人はあまりに過酷な喪失体験に直面した際、安易な励ましや明るい言葉だけでは傷を塞ぐことができません。自らの悲哀をありのままに肯定し、同じ痛みを共有するメディア(音楽)が存在して初めて、感情の抑圧が解かれ、再生への歩みが始まります。『かえり船』は、涙を流すことすら許されなかった引き揚げ者たちに公の場で泣くことを許した、文化的処方箋であったといえます。