天文学の歴史において極めて重大な転換点となったのが、天文単位定義変更理由とそれに伴う国際天文学連合IAU決議です。多くの一般書では今なお「1 au = 太陽と地球の平均距離」と解説されていますが、現代の厳密な科学定義において、この説明は正確ではありません。
もともと天文単位は、1976年にIAUが定めた「太陽の質量を中心として、摂動を受けない円軌道を1日あたり一定の角度で公転する仮想的な粒子の軌道半径」という、ガウス引力定数に基づく力学的な計算式によって定義されていました。要するに、観測や計算によって導き出される「測定値」だったのです。しかし20世紀末から21世紀にかけて観測技術が飛躍的な進化を遂げると、この旧定義が抱える致命的な欠陥が浮き彫りになりました。
最大の要因は、アインシュタインの一般相対性理論がもたらす時空の歪みです。旧来の力学的定義では、地球の観測者がいる場所の重力場や運動状態(時空の局所的な歪み)によって時間の進み方が異なるため、計算に用いる座標系によって天文単位の長さがメートル換算で数メートルから十数メートルも食い違ってしまうという不都合が生じました。さらに、太陽自体が核融合反応や太陽風の放出によって毎秒数百億トン単位で質量を失い続けているため、太陽の引力低下に伴って地球の公転軌道が1年間に約15センチメートル外側へ拡大しているという観測事実も、基準の固定化を阻む障害となっていました。
惑星探査機をミリメートル単位の精密さで誘導する現代の天文学において、物差しそのものが伸び縮みする状態は看過できません。そこで2012年8月、中国・北京で開催された第28回IAU総会において「決議B2」が採択されました。これによって天文単位は、地球の軌道や太陽の重力に縛られる力学的定義を完全に脱却し、「正確に149,597,870,700 m(誤差0)」という純粋な定数として固定されたのです。現在の1 auは、地球の実際の軌道とは無関係に、独立した長さの基準として絶対的な地位を確立しています。