ネコバスの行き先表示幕に一瞬だけ表示される「墓道」の文字も、冥界への運行を示しているとして恐怖を煽る格好の材料とされてきました。
しかし、作中で回転する行き先表示を追うと、「塚森」「長沢」「三ツ塚」「墓道」「大沼」「七国山病院」といった地名が並んでいます。これらは宮崎駿監督が居を構え、作品のモデル地とした埼玉県所沢市から東村山市にかけて実在する旧地名や小字(こあざ)に由来するものです。古くからある農村部では、共同墓地へ続く農道や小路を「墓道」と呼ぶ習俗が自然に存在しており、日常的な原風景のリアリティを追求した描写に他なりません。
また、物語の鍵を握る七国山病院のモデルとなったのは、東京都東村山市の八国山緑地に隣接する「新山手病院(旧・保生園)」です。この病院は結核療養所としての歴史を持ち、宮崎監督の実母が長期間にわたって入院生活を送っていた場所でもあります。監督は自身の幼少期の記憶と母への思慕を投影し、このノスタルジックな舞台設定を構築しました。