U2の初期キャリアを代表する名曲『New Year's Day』の出発点は、意外にも政治的なプロテストソングではありませんでした。フロントマンであるボノ(Bono)が、1982年に結婚したばかりの最愛の妻アリソン・スチュワート(アリ)に捧げるラブソングとして歌詞をスケッチしていたことが、制作の始まりです。
ツアーやレコーディングで離れ離れになる時間が長かった当時、ボノは孤独や切なさを埋めるように「I will be with you again(僕は再び君のそばにいく)」というフレーズをノートに書き留めていました。しかし、スタジオでのセッションが進むにつれ、その個人的な感情は当時ヨーロッパを揺るがしていた巨大な歴史のうねりと共鳴することになります。
当時、共産党政権下のポーランドでは、レフ・ワレサ(Lech Wałęsa)率いる自主管理労働組合「連帯(ソリダルノスチ)」が自由と民主化を求めて激しい抵抗を続けていました。政府は戒厳令を敷いてワレサを投獄し、民衆の声を力尽くで封じ込めていたのです。ボノはこの不条理なニュースに強い衝撃を受け、愛する人への個人的な想いと、抑圧に抗う民衆の連帯感をひとつの叙事詩として重ね合わせることを決意しました。
「たとえ引き裂かれ、厳しい冬の中に閉じ込められようとも、私たちは必ず再び巡り会う」。妻への誓いは、そのまま「自由を取り戻す民衆の希望」へと再構築され、私小説的な愛の歌は国境と時代を超える壮大なメッセージソングへと昇華したのです。