黒猫ジジの声が聞こえなくなり、箒で空を飛ぶ力を失ったキキ。思春期の少女が直面するアイデンティティの喪失を、映画は見事なまでに「表現者のスランプ」として描く。
「描いて、描いて、描きまくる。それでもダメなら描くのをやめる。散歩したり、昼寝したり、何もしない。そのうち急に描きたくなる」
小屋のベッドでウルスラが語るこの言葉は、クリエイターのみならず、人生の壁にぶつかったすべての現代人の胸を打つ。魔法は生まれつき備わっていた特権ではなく、自分自身の血の中に流れる才能と意志で紡ぎ直さなければならない。ウルスラが描きかけの絵をキキに見せ、対話を重ねるプロセスは、折れた心を再生するための儀式だった。