1999年10月26日午後0時50分頃、JR高崎線桶川駅の西口で事件は起きた。大学に向かう途中だった猪野詩織さんは、待ち伏せしていた男によって背後から刃物で襲撃され、左胸などを刺されて絶命した。凶行はわずか数秒の出来事だった。
彼女は数ヶ月もの間、常軌を逸した嫌がらせと脅迫に晒され続けていた。始まりは些細な出会いだった。交際を迫り、次第に暴力的な本性を現した男。別れを切り出すと態度は一変し、自宅周辺への不気味な徘徊、無言電話、さらには自宅や父親の勤務先、近隣一帯に誹謗中傷のビラを数千枚規模でばらまくという執拗な精神的拷問が続いた。
猪野詩織さんは自身の身に迫る危険を正確に予見していた。「もし私が殺されたら、あの男の仕業だと思って」。遺された日記や家族への言葉には、逃げ場のない恐怖と極限状態の苦しみが克明に刻まれていた。