日本の麺文化を語る上で、長年メディアやSNSを騒がせ続けているのが「関西における呼び名問題」です。西日本、特に関西圏(大阪・京都・兵庫など)では、町の中華料理店や喫茶店に「冷麺はじめました」という短冊が貼られますが、運ばれてくるのは紛れもない「冷やし中華」です。
大手ネット掲示板や知恵袋、X(旧Twitter)上では、毎年夏になると次のような投稿が相次ぎます。
「大阪の中華屋で冷麺を注文したら、錦糸卵とハムが乗った冷やし中華が出てきて混乱した」
「焼肉屋のあのゴムみたいな冷麺が食べたかったのに、酢醤油の和え麺が出てきてショックを受けた」
京阪神地区の老舗大衆中華料理店の店主は、取材に対して次のように証言します。
「昭和の初め頃、関西に入ってきた段階で『冷たい中華麺』を略して自然と『冷麺』と呼ぶ看板を掲げたんですね。『冷やし中華』という言葉は、東京の百貨店や大手食品メーカーが流通主導で全国に広めた呼称という意識が強く、今でも関西の町中華では『冷麺』と表記するのが当たり前になっています。焼肉文化が定着した平成以降、韓国式の冷麺と区別するために『韓国冷麺』『盛岡冷麺』とわざわざ頭につけて呼び分けるケースが増えました」
つまり関西圏では、「冷麺」という上位概念の言葉が先に定着し、後から焼肉チェーン等を通じて本来の朝鮮半島系冷麺が流入したため、同一の単語に二つの異なる料理が共存する言語的ねじれが生じているのです。