夕暮れ時、冷え込む街を歩くと、どこからともなく煮干しと昆布の甘やかな香りが漂ってくる。金沢の夜の代名詞といえば「金沢おでん」だ。透き通った黄金色の出汁がぐつぐつと音を立てる鍋の前には、仕事を終えた地元客が肩を寄せ合い、熱燗を傾けている。
鍋の中で圧倒的な存在感を放つのが、出汁をたっぷり吸い込んで重層的な旨味を蓄えた巨大な「車麩」と、コリコリとした歯ごたえがたまらない大ぶりの「バイ貝」だ。冬場であれば、香箱ガニの甲羅に内子と外子、身を詰めた「カニ面」が加わり、鍋の中は贅沢の極みに達する。食べログやRettyといったレビューサイトの点数だけでは見えてこない、創業半世紀を超える路地裏の縄のれん店には、代々継ぎ足された出汁の深みと、店主の温かな眼差しが確かに息づいている。