慢性的なオーバーワークが引き起こす最悪の病態、それがオーバートレーニング症候群だ。単なる一過性の「疲れ」とは次元が異なる。中枢神経系と内分泌系の機能が著しく破綻し、数ヶ月から時には年単位での休養を余儀なくされる重篤な状態を指す。
スポーツ医学業界が警告を発するように、この症候群の初期症状は実に狡猾だ。朝の静止時心拍数の上昇、寝つきの悪さ、食欲不振、理由のないイライラ。フィットネス・ウェルネス業界でも、真面目なトレーニーほど症状を「努力不足」と誤認してさらに追い込みをかけ、症状を悪化させる負のループが問題視されている。
アスリートのメンタルヘルス問題に光を当て、米ドキュメンタリー番組『ザ・ウェイト・オブ・ゴールド』(HBO製作)が告発した苦悩は、一般のスイマーにとっても人ごとではない。過剰なプレッシャーと過度なトレーニングが脳内のホルモンバランスを崩し、深刻な抑うつ状態を誘発するプロセスは、トッププロもアマチュアも同じ生理学的メカニズムに基づいている。