プロボクシングの黄金期を象徴するメガマッチとして組まれたWBA(世界ボクシング協会)ヘビー級世界タイトルマッチ、「イベンダー・ホリフィールド対マイク・タイソン第2戦」。前年の第1戦で屈辱の11回TKO負けを喫していたマイク・タイソンにとって、このリマッチは失墜したキャリアとプライドを取り戻すための絶対的な舞台だった。会場にはハリウッドスターやセレブリティが押し寄せ、全世界数千万人規模の視線がネバダの四角いリングに注がれていた。
試合開始のゴングと同時に、張り詰めた緊張感が火花を散らす。しかし、タイソンが描いていたシナリオは序盤から大きく狂い始めた。ホリフィールドの老獪なクリンチワークと、接近戦で見せる執拗な頭の使い方がタイソンを苛立たせる。第2ラウンドには激しいバッティングによってタイソンの右眉上がパックリと割れ、鮮血が視界を奪った。名レフェリーとして知られたミルズ・レインはこれを故意ではなく「偶発的な事故」と裁定。この瞬間、タイソンの脳内で何かが音を立てて崩れ去った。
そして運命の第3ラウンドが訪れる。マウスピースを外し、狂気を宿した瞳で突進したタイソンは、クリンチの体勢からホリフィールドの右耳へと食らいついた。激痛に飛び跳ねるホリフィールド。ミルズ・レインが減点2を宣告して試合を再開させた直後、タイソンは再び左耳に噛みついた。もはやスポーツではなかった。耳の一部を食いちぎられた王者の流血を見たレフェリーは、即座に試合終了を宣告し、タイソンの反則負けを告げた。