望月教授が挑んだ「ABC予想」とは、1985年にジョゼフ・オステルレとデイヴィッド・マッサーによって提唱された整数論の最重要予想の一つです。一言で表現すれば、「足し算と掛け算の間に横たわる根本的な関係性を記述する法則」です。
現代数学において、素因数分解に代表される「掛け算(乗法)」と、単純な加算である「足し算(加法)」は、根本的に異なる構造を持っています。互いに素である自然数において「a + b = c」という足し算の関係があるとき、それぞれの素因数を掛け合わせた積(rad(abc))は、通常cよりも小さくなることが極めて稀であるという事実を定式化したものがABC予想です。これが証明されれば、フェルマーの最終定理の別証明をはじめ、数多くの未解決問題が一挙に解決されるとされています。
望月教授が開発した「宇宙際タイヒミュラー理論(Inter-universal Teichmüller Theory, IUT理論)」は、この難問を解くために、数学の舞台そのものを新しく作り直すという前代未聞の手法を採用しました。従来の数学では固定されていた「足し算と掛け算が混ざり合った舞台(数学的宇宙)」を一度解体し、複数の異なる数学的宇宙を並立させて情報の伝達を行うことで、両者の絡み合いを解きほぐすことに成功したと主張しています。